第10回定期演奏会
冬、空気の乾燥が著しく、火の用心の季節である。町の消防団や町内会が夜回りをする所も多い。その中でも風情あるのが、拍子木を打ち鳴らしつつ「火のぉ用心!(チョンチョン)」と呼ぶ、昔ながらのあれ。夜の静寂を一層感じさせてくれる。
なにも時代劇の中の話ではない。東京都内でも、この声を聞くことができる。最初に拍子木のチョンチョンが聞こえ、やがて呼び声が近づき、通り過ぎてゆく。この時季にしか味わうことのできない情趣である。かつては、夏には金魚売りや風鈴売りの声も聞かれたが、こちらはそれこそ時代劇の世界になってしまって久しい。
夜回りの魅力はやはりこの声と音であるが、筆者は先日この呼び声の主を実際に目にした。半被姿の青年が五人ほど、確かに拍子木を打ち鳴らしながら辻を曲がっていく有り様に思わず、いいねぇ!とつぶやいてしまった。勿論、夜回りは見せ物ではないし、その目的からすると、このような野次馬根性は甚だ不謹慎なのだが。
聞くと見るとは大違い、という言葉がある。ひとつには、よい評判を耳にしていたのに、実物を見てがっかり、という意味もある。一方では、見ることによってその本領を実感し、感動ひとしおという状態を指す。筆者の不謹慎な「いいねぇ」の正体はこれであった。
この感興は、見るという行為に限定するものではなく、その場に存在する事物がもたらす臨場感が肝腎なのである。一言で言えば、ライブ感である。スポーツでも演劇でも、その時その場でしか味わうことのできないものがあろう。
そして、ショスタコーヴィチを体感することにはまってしまった者たちがここにいる。同好の志を増やしつつ、紆余曲折を経ながらも十回目の本番を迎えることができた。そのために様々な形でご助力くださった方々には、心からの感謝を申し上げたい。
本番、しかしアマチュアのオーケストラにとっては、それに至るまでの日々がなくては、体感する喜びは不完全なのである。手前味噌なことを言えば、我がダスビダーニャにとっては、この四ヶ月あまりの練習こそ、「いいねぇ!」を感じられるライブの場なのだ。
と、ほんの少しオケ自慢をさせていただいてしまったが、ともかく十年間にわたるライブ感のひとつの結実として、今日また本番の舞台に立つ。ご来場の聴衆の方々とともに、今この時でしか実感できない感興を、存分に愉しもう。