交響曲第12番「1917年」解説
〜1995.3.21 自由ケ丘フィルハーモニー協会演奏会のプログラムより

正統ショスタキスト 白川悟志


※注 この解説は、1995年3月21日(なんと、あの地下鉄サリン事件の次の日)に新宿文化センターにて行われた「自由ケ丘フィルハーモニー協会(最初で最後の)演奏会」のプログラムに掲載された、当団白川団長の執筆した解説である。ちなみに、その時の前プロは、シベリウスの交響曲6番。筆者の手元に奇跡的に1部だけ残っていたプログラムを改めてみてみると、ダスバーは20人を数える。(現在、参加していない人も含む)

この文の掲載を快く許可していただいた、当時の自由ケ丘フィルハーモニー協会の責任者の方、白川団長に心より御礼申し上げます。


―それでは、同志ショスタコーヴィチ。君を処刑する前に、君の交響曲第12番「1917年」について、本当のことを話してもらおうか

―確かに、タイトルの「1917年」というのはロシヤ革命の年だし、各楽章に付けた標題も、例えば、第2楽章の「ラズリフ」はレーニンがひそかに革命の準備をしていた所の地名、第3楽章の「アフローラ」というのも、革命蜂起の号砲を放った軍艦の名前です。また、全曲を通して、随所にいろんな革命歌のメロディーが登場します。だから、この交響曲のテーマは、どこから見ても十月社会主義革命への賛歌のはずでした

―だが、我々ソヴィエト革命政府の目も節穴ではない。君は第12番の他にも、第2交響曲「十月革命に捧ぐ」や、交響詩「十月」といった、やはりロシア革命をテーマにした作品を書いている。大作曲家ともあろう者が同じテーマにした作品を何曲も書けば、文化政策当局も疑問を抱く。しかも、この第12番は、1楽章「革命のペトログラード」だの、第4楽章「人類の夜明け」だの、標題が、いかにもロシヤ革命の音楽ですよと言わんばかりにわざとらしすぎるのだよ。この交響曲の本当のテーマは一体何なのだね。

―ロシアの民が本当に望んでいる、未だなされていない、真の“ロシヤ革命”です。1917年、私たちロシヤの民は、労働者と農民の権利自由を旗印にしたロシヤ革命に希望を託し、革命後には、自由と平和を手にすることが出来ると信じていました。しかし、旗印は実行されず、革命前の帝政時代と何ら変わらぬ、粛正と銃殺による恐怖政治に支配されました。権力を握った狂人は他国の狂人との間に戦争を引き起こし、多くの尊い国民の命を犠牲にしました。私は、第12番を、革命50周年という節目を間近にして書きました。例えば、日本という国に人類初の核爆弾を落としたあの戦争にも、いずれ50周年という節目がやってきます。日本の国民は、自由と民主主義を旗印にした戦後の新政府に、核の脅威のない平和な未来を託したに違いありません。しかし、およそ権力者による旗印は、50年たっても実現されないものだということは、わが国の革命政府を見れば…

―もうよい。君の話を聞いていると耳が痛くなる

―なんですと?耳が痛いですと?これは天才作曲家ショスタコーヴィチの大きな誤算!私はてっきり、あなたがた権力者の耳というものは、国民の声を聞いても痛くならないと思っていたので、私は人生を賭けて、ラッパの太鼓の曲ばかり書いてきたのに…


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