D.ショスタコーヴィチ
『葬送と勝利の前奏曲』作品130


 「私がノヴォロシスク市のために何年か前に書いたような曲を書いて頂けないか、とヴォルゴグラード市(旧スターリングラード市)からの手紙が届いた。この依頼を受けて、短い楽曲『葬送と勝利の前奏曲 −スターリングラード戦の英雄たちへの追憶のために−』を作曲した。(「プラウダ」紙より)」

 ショスタコーヴィチは1960年に、「大祖国戦争(第2次世界大戦)」における防衛戦の犠牲者たちを記念して、『ノヴォロシスクの鐘 −永遠の栄光の炎−』を作曲している。様々な都市のために記念音楽を書く、というアイデアを彼は気に入っていたようで、交響曲第7番『レニングラード』もこの範疇に入るのかもしれない。
『葬送と勝利の前奏曲』は同様のアイデアで、ヴォルゴグラード市の委嘱を受け、1967年に作曲された。ちなみに『スターリングラード戦』は、ジャン=ジャック・アノー監督、ジュード・ロウ主演で話題を呼んだ映画『スターリングラード』(2000年)や、ソ連映画『スターリングラード大攻防戦 白銀の戦場』(1972年)の舞台となった防衛戦である。
 「重厚」「荘厳」という言葉をそのまま音楽にしたような導入部から、大規模で賑々しいブラスバンドを伴う終結まで、2分余り、30小節に満たない非常に短い曲である。作曲当時の彼は心臓発作による生命の危機を経験し、さらに右手が不自由になりはじめており、左手を添えなければペンを持てなくなっていたが、そのような状況でも見事な式典音楽を作り上げた。『黄金時代』のヒネた楽想との落差もお楽しみいただきたい。                      (はんざわ)


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